わがまちの地方創生
2025年11・12月号

木曽ひのきの里 上松のこれから

上松町と「木」の文化

上松町は木曽谷のほぼ中央に位置する豊かな自然に囲まれた町です。木曽ひのきに代表される木材やその加工品を特産としており、長い歴史の中で育まれた森林文化は、平成28年に文化庁による「日本遺産」の一部として認定され、今現在においても脈々と受け継がれています。

本年は20年に一度の伊勢神宮の式年遷宮に伴う「御杣始祭(みそまはじめさい)」が上松町において執り行われました。この儀式は式年遷宮においてご神体をお納めする器である「御樋代(みひしろ)」を造るための木材(御神木)を伐採(「寝かせる」と表現します)する非常に重要なものであり、1300年以上も続く当儀式が上松町において行われることは、大変な名誉であり住民にとっての誇りとなっています。伐採された御神木は、上松町内における奉曳(ほうえい)をはじめとした「御神木祭」を経て伊勢へとお送りします。本年も全国各地より多くの参加者があり、普段は静かな町中が大いに賑わい、過疎化が進む上松町の底力を垣間見た気がいたしました。

上松町は常に「木」の文化とともにあり、切っても切れないアイデンティティの一つといえます。

御神木 奉曳行事

上松町の観光

先に挙げた「日本遺産」の構成文化財の一部である木曽の桟や赤沢自然休養林といった景勝地もまた上松町の魅力の一つです。特に近年では、その珍しい風景がバズったのか若者によるInstagramやTikTok等のSNSで「寝覚の床」の映像が拡散され、それをみた若者がまた寝覚に訪れるという好循環が生まれています。ゴールデンウィークやお盆等の連休では国道19号線沿いにある寝覚の駐車場が県外ナンバーで埋め尽くされる現象が発生しており、これまでなかった光景に驚愕しつつも、県外の若者がこうして楽しそうに上松町に訪れてくれていることをとてもうれしく思っています。

寝覚の床

上松町の人口

上松町の総人口は、1985年には7,370人でしたが、2005年には6,000人を下回り、住民基本台帳によると2025年3月末時点において3,875人まで減少しています。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると2050年には1,990人まで減少することが予測されています。

年齢3区分別人口の推移をみると1995(平成7)年の国勢調査における年少人口は988人でしたが、2015(平成27)年の国勢調査では442人と半減しています。また、65歳以上の老年人口は1,726人から1,838人へと6.5%増加しており、他の自治体の御多分に漏れず少子高齢化が進んでいます。生産年齢人口については3,927人から2,387人と大きな変化はないものの少しずつ減少しています。

また、住民基本台帳における近年の人口動向では、2015(平成27)年に468人であった年少人口は、2024(令和6)年12月末には311人と更なる減少となっており、さらに、65歳以上の老年人口も1,926人から1,739人、生産年齢人口についても2,572人から1,880人へと減少しています。

自然動態をみると、死亡数が出生数を上回り、自然減の状態が続いており、2024(令和6)年には87人の自然減となっています。近年では年間出生数が10名前後にまで低下しており、大きな課題となっています。

好転した社会動態

一方、社会動態をみると、2023(令和5)年に転入数が転出数を11人上回る社会増を記録しました。これは当町においては24年ぶりのことです。さらに2024(令和6)年においても16人の社会増となり、2年連続の転入超過を達成いたしました。

これらの考えられる要因としては以下の2点が挙げられます。一つは町内企業が新型コロナウイルスの第5類感染症への移行を機に積極的な人材採用へ動いていることです。町内には主産業として自動車部品等の製造業者が存在しますが、ヒアリングをしたところコロナで止まっていた工場の再稼働及び生産量の増加に伴い、人材強化を進めているとのことで、結果として町外から多くの新規採用者が転入しています。

もう一方の理由は30歳前後のUターン者が増加していることです。結婚や出産等のライフイベントを機にパートナーや子どもを連れて上松町に戻ることを選択する方が増えています。何名かに理由を尋ねると、「子育てをしていくなら自分の生まれ育ったこの町が良かった」といったありがたい反応をいただいております。

この動向も踏まえて令和6年度から「上松町おかえり支援金(Uターン者に現金20万円と地域で使用できる商品券5万円分を支給)」する等、支援体制を強化しました。今後もこういった就職希望者やUターン希望者を迎えられるよう体制整備をより進めていく必要があると感じています。

上松町の社会増減折れ線グラフ

上松町の課題~住民ワークショップ~

2020(令和2)年、当企画政策係では、「主として人口減少問題に対し、今後上松町はどのような施策を打っていけば良いか」、その検討材料を得るため『上松町における「少子化」・「移住定住」対策検討ワークショップ』と題した取組を行いました。参加者として役場職員をはじめ、商工会青年部や町づくり委員会の会員、実際に上松町へ移住してきた方等にご協力をいただき、計11回に及ぶ意見出しワークショップを実施しました。日々、参加者が感じている上松町の課題や嫌だと思うこと(マイナス面)と上松町の魅力(プラス面)をブレインストーミング法により、思いつく限り付箋にコメントを記入・貼出していった結果、膨大な量の意見を得ることができました。大変であったのはここからで、担当職員がコメントを一つ一つ確認、整理しましたがこれにはかなりの時間を要しました。

どうにかまとまった結果をみると、特に以下のジャンルに対して課題コメントが集中していたことがわかりました。

(1)住居問題
(2)地域負担問題

(1)については、特に町内の賃貸住宅の少なさを嘆く声が目立ちました。検証を進めると確かに町営住宅は常に満室で、民間で経営しているアパートも数が少なく、賃貸需要に対し、供給が間に合っていない状態であることを再認識しました。当町には一年制の木工を学ぶ上松技術専門校があり、毎年40名程の学生が町外から訪れます。学生寮もあるとはいえ全員が入寮できるわけではなく、毎年ここでも賃貸需要が発生するほか、先述の通り、近年の町内企業の積極的人材採用やUターン者の増により、更に需要と供給の差に開きが出てきています。実際、1~2月の引越先検討シーズンに当たるこの期間においては、当係に「賃貸契約にて募集をかけている空き家はないか」、といった旨の相談が殺到しますが、紹介できる物件は基本的になく、来庁者の方にとって良い回答が出来ずにいつもやきもきしています。上松町は現在「住みたいと思ってもなかなか住めない町」となっています。

(2)は地域で生活する上で担う、地区や分館の役職、消防団やお祭りの執行団体の各「役目」が負担になってきているという点を現しています。ヒアリング結果からわかったことは、今より人の多かったころに定められた組織やその体制が、人口減で担い手が減った現在においても、その体制が見直されることなく、現在いる人で全うせざるを得ない状態、言い換えれば一人当たりの負担が増えてしまったことに問題の根幹があるようでした。

中にはこういった役割や濃厚な人間関係を嫌がり転出してしまったという事例も見受けられ、軽視できない課題であると受け止めています。

ワークまとめ一部抜粋

翌年には更なる住民からの意見聴取を行うべく、第2弾のワークを行いました。第2弾のメインターゲットは「上松町で子育てをしているお母さん」達とし、保育園の保護者会、小中学校のPTAの皆様にご参加いただきました。

こちらでは、お母さんならではの意見が多く見られ、特に夫(男性)の家事・育児への参画や町内の公園問題などが目立ちました。

ワークショップの内容を施策化

2年に渡り行われたワークショップの内容は関連する各課へ共有をしておりましたが、せっかく得た住民の想いをより施策へ反映できるよう意見内容をベースとした施策案を令和五年に作成しました。当施策案は総合戦略の付録として位置づけ、毎年行う実施計画の内容確認時の参照資料としました。

提言内容は各ワークショップで特に声の大きかった「住宅」「仕事」「商業」「地域負担」「子育て」の分野を取り上げ、それぞれ課題解決に向けた施策案を記載しています。

現在は町をより良くしていくための新規事業立案の参考資料として各係で活用をしており、この内、いくつかの施策は実現化に向けて動き始めています。

なお、各ワークショップのまとめおよび施策提言資料は現在町HPにおいて公開されています。

上松町の強みと今後の展望

上松町は宝島社が発刊する『田舎暮らしの本』の2025年2月号に掲載された「第13回住みたい田舎ベストランキング」の内、「移住者増の人気地ベスト100」において第7位にランクインすることができました。おそらく、先述した令和5年度の転入超過が大きく影響したものと考えています。

また、「人口5000人未満のまちランキング」では、総合部門で第14位、子育て部門で第17位となり、大変ありがたい評価をいただいたと嬉しく思っています。

しかし、ここで考えなおしてみると、これも先述の通り、現在の上松町は需要に対して賃貸住宅が不足しており、「住みたいと思っても、なかなか住めない」状態にあります。住宅(特に賃貸)が増えれば転入者数はもっと増えるはずです。住宅を求めて移住相談や空き家相談に来られたお客様に「良い回答」ができるようにもなります。「住みたい人が住める町」にしていくことがまずもって「わが町の地方創生」だといえます。

近年、上松町は子育て支援を強化してきました。小中学校の給食費無償化にはじまり、3歳未満児の保育料無償化や18歳までの医療受診料負担の無料化等、既存の子育て支援施策と併せると充実した支援体制が整ってきたと考えています。また、冒頭でも説明しましたように「木」を中心とした自然が上松町の特徴でもあります。よって「自然の中での子育て」が当町の強みだと感じています。これを宣伝文句として今後、町の内外にPRしていきます。

この強みに加えて、ワークショップで抽出された町の課題・弱点をひとつひとつ解決していけば上松町はより良い町になっていく、と信じて今後も邁進していきたいと思います。