
Get Things Done-楽天グループ(株)への出向で見つけた、もう一つの仕事のものさし
- 長野県観光スポーツ部観光誘客課 竹元昊月(派遣先:楽天グループ株式会社 サステナビリティ推進部)
- 長野県
楽天グループへの2年間の出向は、県庁では当たり前だったことを見つめ直し、新たな視点を得る機会となりました。異なる環境での挑戦を通じて得た学びは、いま改めて長野県や県庁の仕事を考える上での大切な財産となっています。今回は、楽天で学んだことと、外から見えてきた長野県の姿について、率直にお話しします。
「適応期」
2024年4月からの2年間、私は楽天グループのサステナビリティ推進部に出向しました。それまでの私は、伊那保健福祉事務所で福祉行政を担当する、県職員。出向先で最初に待っていたのは、英語でのコミュニケーション、分単位で切り替わる会議、意思決定はじめ圧倒的なスピード感。
最初の数か月は、戸惑いの連続でした。仕事の進め方も、社内の文化も、コミュニケーションの取り方も、何よりスピード感も、これまでとは大きく違う。任された企画の中には、勝手が分からず思うように進まないものもあり、チームで役割を組み替えながら前に進めた場面もありました。けれど振り返れば、それは「環境が変われば、誰もが一度はゼロから学び直す」という、ごく自然なプロセスだったのだと思います。
慣れない環境の中で心の支えとなったのが、上司から掛けられた「まずは形にしてみよう。完成度はその後で高めればいい」という言葉でした。分からないことは率直に問い、納得するまで確認する。そんな基本を愚直に続けることで、次第に仕事の進め方が見え、自分なりのリズムで動けるようになっていきました。
完璧を目指して考え続けるのではなく、まず動く。そして実践の中で改善を重ね、最後までやり切る。こうした仕事の進め方は、「間違いのない一手」を重んじる県庁の文化とは異なるものでした。しかし、この「まず動き、やり切る」という考え方は、基本的なことですが出向期間を通じて私の中に最も強く残った学びの一つです。
半年がかりの大型企画-走り切る力
出向開始から半年後に主担当を任されたのが、グループ全体の優れたサステナビリティ活動を表彰する社内アワードでした。目的設計から、過去参加者数十人への面談、審査基準づくり、応募書類や景品の準備、執行役員との合意形成、約3万人視聴の全社朝会での告知、そして最終審査会の運営までの約半年間、企画を担当させていただきました。

数万人規模の社員に応募を促し、設定したKPIを達成することは、決して甘くありません。過去の応募者リストを掘り起こし、一人ひとりに個別のメッセージを送り、地道に、あらゆる手を尽くして、ようやく目標を達成。前年29件だった応募を、43件(約300人)まで伸ばすことができました。緊張で足が震えながら立った全社朝会の壇上は、今も忘れられません(笑)。同時期にもその他企画を並行して進める週も長期間続きましたが、その「やりきる」タフさもまた、現場で鍛えられたものでした。
現場で耕した、人と人との繋がり
2年間で関わった企画は、社内アワードのような大型のものばかりではありません。従業員教育を目的とした社内セミナー、社員とその家族が集う一大イベント、各支社(大阪・名古屋・福岡など)でのボランティアと、全国を飛び回りながら、大小さまざまな現場を経験させていただきました。集客一つとっても、自動の告知に頼りきらず、相手に合わせて文面を練り、事前に顔の見える関係を築いておくことが、最後にものを言う。福祉行政の現場で大切にしてきた「一人ひとりと向き合う」という感覚は、形を変えながらも、ここでも確かに生きていました。官民を問わず、仕事を前に進める原動力は、結局のところ人との信頼関係なのだと、現場を重ねるほどに実感しました。

挫折から学んだ「出口戦略」
もちろん、うまくいったことばかりではありません。福岡支社で企画したボランティアは、実施の直前に最終承認者から「費用対効果と出口戦略が見えない」と指摘され、一度は承認が見送られました。実施を確定したつもりでいただけに、頭が真っ白になったのを覚えています。
ここで諦めなかったことが、転機になりました。懸念点を一つずつ潰し、「この取り組みが何を生むのか」を論理的に描き直して再提案。支社の有志約20名を巻き込んだ推進チームをつくり、最終的に支社の過半数にあたる百五十名が参加するイベントを実現できました。さらに参加者の中から数十名が、自主的に外部のボランティアを続けるようになった。一過性で終わらない「自走」が生まれた瞬間でした。
「早めに頭出しをして懸念を先に潰す」「インパクトを論理的に語れる出口を設計する」。この学びは、合意形成に時間のかかる行政の現場でこそ、そのまま生きるはずだと感じています。
「長野県庁出身の出向者」だからできたこと
そして2年間で最も意識したのが、出向のもう一つの目的-長野県への価値還元です。「県庁の人間であり、楽天の人間でもある」という立場は、唯一無二の橋渡し役になれると気づきました。

世間でも、楽天社内でも最もホットな分野であるAIの実用性の高さを日々感じ、県庁内にも導入したいとの思いで、楽天のAIスペシャリストと県庁とを繋ぎ意見交換や講演の場を開催することができました。一度の接点が次の機会を呼び、県内企業も巻き込んだより大きな連携機会へと発展していきました。提案を一度きりで終わらせず、相手の関心や課題感を聞きながら次の接点を仕込んでいく。地道な積み重ねですが、その粘り強さこそが、組織と組織を結ぶ実際の力なのだと学びました。ほかにも、包括連携協定の締結、地域での対話セッション、長野県内でのボランティアなど、2つの組織を知る立場だからこそ繋げられたご縁は、決して少なくありません。単発の連携で終わらせず、「継続する関係」へと育てていくこと。それが、私だからこそ果たせる役割だと考えていました。
外から見た長野県、そして県庁
外に出て改めて感じたのは、「長野県」というブランドが、民間企業にとって想像以上に魅力的な連携相手だということです。豊かな自然、真面目で誠実な県民性、そして全国に名の知れた地名。大企業が「一緒に何かやりたい」と本気で思える素地が、長野には確かにあります。これは、中にいるとなかなか気づけない、私たちの大きな財産です。連携の話を進めるたびに、「長野県」という看板そのものが持つ信頼の厚さを、肌で実感しました。
一方で、私たち県庁の仕事の作法にも、外から見て初めて分かった強みと伸びしろがありました。一つひとつの手続きを丁寧に、間違いなく積み上げていく力は、住民の暮らしを預かる行政だからこその、かけがえのない強みです。けれど時に、その丁寧さが「まず動いてみる」一歩を重くしてしまう。完璧を待つあまり、機を逃してしまうこともあるのではないか。「六割で出して、対話で磨く」という民間のスピード感を、ほんの少し取り入れるだけで、私たちの仕事はもっと前に進めるはずだ-そう強く感じています。
そしてもう一つ。楽天で出会った上司や仲間たちの、仕事に懸ける熱量とパッションには、何度も心を揺さぶられました。組織の大小や官民の違いを超えて、「人を動かすのは結局、人の本気度なのだ」ということ。これは数字や資料には表れない、最も大きな学びだったかもしれません。
おわりに-一歩、外に出てみませんか
出向した当初は、一つの企画を任されるだけでも精一杯だった私が、少しは成長をして今では、目的設定からKPI設計、関係者との合意形成、出口戦略の組み立てまで、企画のほぼ全工程を担当して、走り切る力を培いました。半年がかりのアワード運営や、頓挫しかけた企画を立て直した経験は、まさにその力が試され、鍛えられた現場でした。実力不足を何度も感じた英語も、外国籍のメンバーと臆さず仕事を進められるようになりました。何より、「とりあえず、やってみる」という構えが、確かな自信に変わりました。
出向は、決して楽な道ではありません。慣れない環境で、たくさんの失敗もしました。けれど、外の世界で得たものさしは、必ず県庁の仕事にも、そして自分自身の人生にも還ってきます。もしこの記事を読んで、少しでも外の世界に心が動いた方がいれば、ぜひその一歩を踏み出してみてください。きっと、これまでとは違う角度から、長野県という場所と、自分自身の仕事が見えてくるはずです。
最後に、温かく送り出してくださった県庁の皆さま、そして未熟な私を辛抱強く育ててくださった楽天の皆さまに、心より御礼申し上げます。本当にありがとうございました。




